第1編 建築物石綿含有建材調査に関する基礎知識
1.1 石綿と建築物
1.1.1 石綿について
ILO(国際労働機関)およびWHO(世界保健機関)では、石綿を蛇紋石族石綿と角閃石族石綿に大別し、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、アクチノライト、アンソフィライト、トレモライトの6種類を石綿としている。
蛇紋石族は、クリソタイル1種類のみで、角閃石族が5種類である。
今まで世界で使用されてきた石綿の約9割以上がこの蛇紋石族のクリソタイルである。

石綿の物性
石綿は、織物として織ることができ(紡織性)
引張り強度が極めて大きく(高抗張性)
燃えないで高温に耐え(不燃・耐熱性)
柔軟でかつ摩耗に耐え(耐摩耗性)
酸・アルカリ等の薬品に侵されにくく(耐薬品性)
腐らないで変化しにくく(耐腐食性)
熱・電気を通しにくく(絶縁性)
表面積が大きいので他の物質との密着性に優れており(親和性)
価格が安い(経済性)
江戸時代の発明家・平賀源内は、偶然発見した石綿で作った燃えない小さな香敷き(火浣布)を幕府に献上した。詳しくはこちら
石綿の有害性
1.1.2吸入経路
石綿繊維を含む粉じんのヒトへの吸入経路は
鼻腔→咽頭→喉頭→気管→気管支→細気管支→肺胞道→肺胞囊である。
石綿肺
石綿を大量に吸入することによって発症する。石綿ばく露から10年以上、多くは30~40年以上の後に、胸部エックス線写真で下肺野に不整形陰影を呈する初期病変が現れる。
高濃度ばく露であれば、10年未満のばく露期間であっても発症する。
肺がん
通常の肺がんと比べて差異はない
潜伏期間20~50年
クロシドライト > クリソタイル
中皮腫(中皮腫瘍)
増加傾向にある → 男性/びまん性/胸膜
潜伏期間 平均50年前後(10年未満の例はない)
クロシドライトが最も危険!
良性胸水貯留
潜伏期間の多くは30~50年後
潜伏期間の比較
石綿関連疾患のなかでも中皮腫は最も潜伏期間が長い
喫煙との関係
喫煙の肺がんリスクは石綿のおよそ2倍であり、石綿関連肺がんの大半は、喫煙をやめることによって防ぐことができる。
喫煙の影響
主流煙と副流煙
たばこの煙は主流煙(肺の中に吸入される煙)と副流煙(火のついた先端から立ち上る煙)とに分けられる。発生する各種有害物質は主流煙より副流煙のほうが多く、また主流煙は酸性(PH6前後)であるが、副流煙はアルカリ性(PH9前後)のため目や鼻の粘膜を刺激する。
副流煙と呼出煙(喫煙者が吐き出した煙)を合わせて環境たばこ煙(environmental tobacco smoke ETS)と呼び、これが周囲の非喫煙者にも影響を与えている。自分でたばこを吸わなくても喫煙者の近くにいるだけで、たばこの煙の影響を受けることになる。これを受動喫煙と呼んでいる。
受動喫煙によって呼吸器系の機能障害や諸疾患にかかりやすくなり、特に受動喫煙による、ぜんそくの発生や悪化は数多く報告されている。また虚血性心疾患での影響もみられる。
主流煙より副流煙がこわい・・・

有害物質の吸収、代謝、排泄について
たばこ煙中の諸物質は肺胞から主に吸収されるが、口腔、気道、胃、腸管の粘膜からも吸収される。 たばこ煙中の主な有害物質のうちニコチン、一酸化炭素(CO)、シアン化水素(HCN)についてはそれぞれ次のように吸収、代謝、排泄される。 ニコチンの大半は肺から肺胞に入るが、残りは口腔の粘膜や唾液に溶けて胃の粘膜などから吸収され、さらに血液中に入り各臓器に運ばれていく。ニコチンは吸収が速く、喫煙直後から血中に現れて各臓器に運ばれる。肺から脳までは8秒で到達するとも言われている。
吸収されたニコチンは主に肝臓で、一部は肺と腎臓とで代謝され、主にコチニンとなり、腎臓から排泄される。血中のニコチンの半減期は約2~3時間であるが、コチニンの場合は約17時間で、尿中のコチニンは喫煙後数日間認められる。 喫煙によって吸収されるニコチン量は1本で多くとも2~3ミリグラムと言われている。(ヒトの場合の経口致死量は50~60ミリグラム)
一酸化炭素の吸収
一酸化炭素(CO)は赤血球中のヘモグロビンと結合しCO-Hb(一酸化炭素ヘモグロビン)として血中に存在し、全身に運ばれ、また肺から排出される。
通常、肺から吸い込まれた酸素はヘモグロビンと結びついて赤血球によって全身に運ばれるが、一酸化炭素は酸素に比べ200倍以上もヘモグロビンと結合しやすいため、一酸化炭素が有るとヘモグロビンと酸素の結合が妨げられ、赤血球の酸素運搬能力が低下する。そのため一種の酸欠状態を生じることになる。
血液中の一酸化炭素ヘモグロビンの半減期は3~4時間である。
シアン化水素の有毒性
シアン化水素(HCN) シアン化合物は、酸化酵素の働きを阻害し、組織呼吸に障害をもたらすといわれている。
たばこ煙から吸収されたシアン化水素の一部はそのまま肺から排泄されるが、大部分は肝臓で毒性の弱いチオシアンとなり、一部は活性型ビタミンB12のハイドロオキシコバラミンと結合してシアノコバラミンとなる。活性型ビタミンB12が不足することで有髄神経に栄養障害をきたすことになり、その結果「弱視」になり易いといわれている。
がんと喫煙の関係
がんと喫煙との関係については数多くの疫学調査や動物実験がおこなわれてきた。その結果、肺、食道、膵臓、口腔、中咽頭、下咽頭、喉頭、膀胱のがんについては、喫煙との因果関係があると判断されている。
また最近の研究から、喫煙による発ガンのメカニズムとして、たばこ煙に含まれるベンゾ(a)ピレンなどの発がん物質が体内で活性型に変化したのち、DNAと共有結合をしてDNA付加体を形成し、このDNA付加体がDNA複製の際に、点突然変異やDNA鎖の断裂などの遺伝子変異を引き起こし、こうした遺伝子変異が、がん遺伝子、がん抑制遺伝子、DNA修復遺伝子などに蓄積することにより、細胞ががん化すると考えられている。写真下は、肺の写真である。左は、健康な人のきれいな肺、右は、たばこで汚れ(黒い部分)、がんに冒された(白い部分)肺である。
循環器疾患
脳卒中発症のリスクは喫煙により高くなることが明らかになっている。欧米の疫学追跡調査などから喫煙量の多い群ほど脳卒中罹患率が高いことが報告されている。また喫煙により脳の血流量が低下することも報告されている。
虚血性心疾患の発病のリスクが喫煙により高くなることも疫学研究から明らかになっており、たばこの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素が心臓の冠状動脈の動脈硬化を促進させ、虚血性心疾患を引き起こすといわれている。
呼吸器疾患
喫煙者は咳や痰が出るうえに、呼吸困難をともなう慢性気管支炎や肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患に罹る危険が高くなる。
肺の末端には数多くの肺胞があり、ここで二酸化炭素と酸素のガス交換が行われているが、たばこの煙などが入ると、防衛のため細胞の活動が活発になり、たんぱく質を分解する酵素がでる。その酵素を抑制する酵素も出るが、双方のバランスがくずれると、たんぱく質分解酵素が肺胞の壁を破壊。その結果肺気腫が生じると言われている下の写真は重症の肺気腫の写真である。この状態ではガス交換が十分に行われず、呼吸困難をきたすことになる。
この他に、喫煙がリスクを高める呼吸器疾患として気管支喘息、自然気胸、呼吸器感染症などが挙げられる。
その他の疾病
胃、十二指腸潰瘍など:たばこの煙に含まれるニコチンが胃液の分泌を促進させる一方で、胃や十二指腸の血管を収縮させ粘膜の抵抗を弱めるため、胃や十二指腸潰瘍を引き起こすといわれている。
歯周病 :喫煙で歯が黄色くなるが、それだけではなく歯周病にも罹りやすくなるといわれている。
能動喫煙の影響
●急性影響
たばこ煙の有害物質のうち、生理的に影響を及ぼす主な物質はニコチンと一酸化炭素といわれている。ニコチンは中枢神経系を興奮させ、心拍数の増加、血圧上昇、末梢血管の収縮など心臓、血管系に影響を与える。一酸化炭素は赤血球のヘモグロビンと結びついて、血液の酸素運搬を阻害する。
初心者の喫煙時、あるいは非常習喫煙者が短時間に過量の喫煙をした場合には、いわゆる急性たばこ中毒あるいは急性ニコチン中毒に陥ることがある。脱力感、発汗、呼吸困難、悪心、嘔吐のほか頭痛、不安感、顔面蒼白、視力減退、散瞳と縮瞳の交替などが認められる。
喫煙による主な急性影響
循環器系 血圧上昇、心拍数増加、末梢血管収縮、循環障害(手足のしびれや冷感、肩凝り、まぶたの腫れなど)
呼吸器系 咳や痰などが出る他、呼吸器障害による息切れ
消化器系 消化不良や食欲低下、口臭、下痢や便秘
中枢神経、感覚器系 睡眠障害
その他 体重減少、運動能力の低下、肌荒れ、胎児への影響など
受動喫煙の影響
受動喫煙による影響のうち、肺がんとの関係は、疫学調査によって早くから報告されていた。喫煙する夫をもつ非喫煙女性の肺がん相対危険度は、喫煙をしない夫をもつ者を1とすると、夫が1日20本以上吸う場合、1.9倍にもなるという結果が示されている。
また、受動喫煙によって副鼻腔がんに罹る率が高くなるという報告もある。
虚血性心疾患との関係では、受動喫煙によってニコチンや一酸化炭素などの影響も受けて心筋梗塞などに罹りやすくなる報告もある。
小児においては、母親の喫煙による影響が顕著で、咳や喘息、気管支炎などの呼吸器症状の発現の危険度が増すことが報告されている
P29 目的
特に耐火被覆材として使用された石綿含有吹付け材、耐火被覆板は、超高層ビルで火災が起こったとしても、人命救出の時間を稼ぐため鉄骨の軟化を防ぐ目的で使用された。
P29~ 吹付け材の種類と特徴
① 石綿含有吹付け材
② 石綿含有耐火被覆板
③ 石綿含有断熱材
④ 石綿含有成形板
⑤ 建築用仕上塗材および下地調整塗材
P27-24 ① 石綿含有吹付け材
石綿含有吹付け材(図1-10)には、
吹付け石綿
石綿含有吹付けロックウール
石綿含有吹付けバーミキュライト(ひる石)
石綿含有吹付けパーライト(真珠岩)
があった。これらの用途は、鉄骨耐火被覆用、天井・壁の吸音用、天井の結露防止用である。
P30 ② 石綿含有耐火被覆材
石綿含有吹付け材の代わりに用いられ、化粧を目的に既存建築物等に使用されている。石綿含有耐火被覆板には、吹付け石綿の配合比率で成形した石綿含有耐火被覆板と、1~30%の石綿とけい酸質、石灰質原料で反応させ成形した平均厚み25mm程度の石綿含有けい酸カルシウム板第2種がある。
P30 ③ 石綿含有断熱材
断熱・結露防止用としての屋根用折板裏断熱材と煙突用断熱材がある。前者は屋根折板にクリソタイル90%以上のフェルト状の断熱材を張りつけたもので、この断熱材は、ガラス長繊維のフェルト等に代替化されている。後者は、時代が古い順に、a.アモサイトを円筒状にしたもの、b.石綿管にアモサイト90%以上を含むもので巻いたもの(断熱材)である。
P31 ⑤ 石綿含有成形板
石綿含有成形板(図1-13)には、石綿とセメント、けい石等を原料とした石綿スレート(形状により、波板、平板等がある)、石綿とけい酸カルシウムを原料とした石綿含有けい酸カルシウム板第1種、石綿とスラグ、パルプを原料とした石綿含有スラグせっこう板、パルプセメント板等があり、耐火性能、耐候性能等により内装材、外装材、屋根材等の用途に使用されていた。
P31 ⑥ 建築用仕上塗材および下地調整塗材
建築用仕上塗材は、建築物の内外装仕上げに用いられており、セメント、砂、着色顔料などを混合した塗材、合成樹脂系薄塗材や、凹凸模様の複層塗材等があり、過去に石綿を使用した時期があった。
また、コンクリート下地に建築用仕上塗材を施工する場合、下地との表面の穴埋めや、段差を比較的平滑にする目的で下地調整塗材を使用する場合があり、これにも石綿を使用した時期があった。
P35 石綿含有建材のレベル分類
石綿含有建材は飛散性の観点から石綿障害予防規則と整合性も高い「レベル1~3」の建材として便宜上に分類され、一般的にこの分類が活用されている。
P35 石綿の代替建材
労働者に対する健康障害防止のために石綿含有建材に係る法規制の適用範囲は、1975(昭和50)年の改正で石綿含有率が5重量%を超えた石綿含有物となり、1995(平成7)年には1重量%を超えた石綿含有物が、2006(平成18)年には0.1重量%を超えた石綿含有物が対象となった。
P35 レベル1の石綿含有吹付け材の代替吹付け材
石綿含有率が60~70%の乾式の「吹付け石綿」が石綿の代わりに一部ロックウールを使用して石綿含有率1~30%の石綿含有ロックウールに、最後に石綿を含まない吹付けロックウールとなる。
このように、乾式の「吹付け石綿」の場合は、時代とともに、石綿含有率の変化があるため、建築物の竣工年がポイントとなる。
P36 レベル2の石綿含有断熱材、保温材、耐火被覆材の
主な代替材料
① 石綿含有断熱材は煙突用と屋根用折板用があり、いずれも石綿をまったく使用しないガラス長繊維に完全に置き換わっている。
② 石綿含有保温材の代表である石綿含有けい酸カルシウム保温材は、石綿の代わりに主にガラス長繊維を使用しており、石綿含有率が低いため、石綿の低減をせずに完全に置き換わっている。
③ 耐火被覆材すなわち耐火被覆板の代表である石綿含有けい酸カルシウム板第2種は石綿の代わりにガラス長繊維、パルプを使用しており、石綿含有率が低いため、石綿の低減をせずに完全に置き換わっている。
P36 レベル3の石綿含有成形板の主な代替建材
石綿含有けい酸カルシウム板第1種は、2005(平成17)年にアモサイトが禁止となったのに伴い、一部クリソタイルとパルプ等での製品の供給が、石綿の使用が禁止となるまで続いたと思われる。
P38
労働安全衛生法および
石綿障害予防規則の概要
P38 労働安全衛生法の概要
この目的に沿って、各種条文が定められているが、石綿に関係する主な条文としては、作業主任者(第14条)、事業者の講ずべき措置等(第20条)、技術上の指針等の公表等(第28条)、事業者の行うべき調査等(第28条の2、第57条の3)、製造の許可(第37条)、製造等の禁止(第55条)、表示等(第57条)、文書の交付等(第57条の2)、健康診断(第66条)、計画の届出等(第88条)がある。
労働安全衛生法 第14条
事業者は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該作業の区分に応じて、作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。
労働安全衛生法 第28条の2
事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。※一部要約
労働安全衛生法 第66条
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
石綿健康診断について→厚労省資料
P39 石綿障害予防規則の概要
2006(平成18)年9月から0.1重量%を超えて石綿を含有する製品の製造等が禁止となった。
P40 事前調査の対象
事前調査の対象は、建築物、工作物または船舶の解体または改修の作業を行うときであり、この場合には、事前に建築物等について石綿の有無を調査することが義務付けられている。
P40 事前調査を行う者
事前調査のうち、建築物に係るものについては、適切に当該調査を実施するために必要な知識を有する者として厚生労働大臣が定めたものとされている(施行時期:2023(令和5)年10月1日)。これに該当する者として、①建築物石綿含有建材調査者、②日本アスベスト調査診断協会に登録した者(2023(令和5)年9月末までに同協会に登録した者)となっている。
P41 事前調査の方法
①設計図書等の文書を確認する方法(設計図書等の文書がない場合はこの限りでない)
②目視による確認方法(建築物等の構造上、目視確認が困難な材料についてはこの限りでない)がある。
→その材料に石綿があるとみなし、石綿則に規定する措置を行った場合は分析による調査を行わなくともよいとされている。
P41 事前調査結果報告書
事前調査結果(分析結果を含む)報告書の内容については後述する「建築物石綿含有建材調査報告書」に示す(第4編)。この報告書に基づく調査の記録については、3年間保存することが事業者に義務付けられている。
第1編 10:45~11:50
第1講座②
建築物石綿含有建材調査に関する基礎知識2
P43 大気汚染防止法
1989(平成元)年に石綿を「特定粉じん」と位置付け。1996(平成8)年に吹付け石綿(表1-5のレベル1を指す)が使用された一定規模以上の建築物等を解体し、改造し、または補修する作業を伴う建設工事(特定工事)を適用対象とした。
P43 大気汚染防止法
2005(平成17)年の法令改正で、石綿含有断熱材、保温材および耐火被覆材(表1-5のレベル2を指す)が追加されるとともに、吹付け石綿を使用した建築物の解体等工事の規模要件が撤廃された。
P43 大気汚染防止法
2013(平成25)年の改正では石綿含有建材の使用状況についての工事前の調査(事前調査)の義務付け、元請業者から発注者への届出義務者の変更等が行われた。
2020(令和2)年6月5日には、前述したレベル1、2に加え、石綿成形板等も適用対象とされた。
P47 建築基準法
建築基準法は、規制対象が吹付け石綿および石綿含有吹付けロックウールとされているが、増改築等(建築物等の解体・破砕等を含むもの)を行う際は、他法令に基づく調査義務が発生し、他の種類の建材についても調査が必要になることにも注意が必要である。
P48 廃棄物処理法
廃棄物処理法では、解体等で発生する前述のレベル1(石綿含有吹付け材)、2(石綿含有保温材、断熱材、耐火被覆材)を「廃石綿等特別管理産業廃棄物」と位置付け、溶解処分または埋立処分として、管理型処分場、遮断型処分場に、溶解処理もしくは無害化処理した廃石綿等は安定型処分場に埋め立てることとしている。
P49 建設リサイクル法
また、対象建設工事は、事前調査時に吹付け石綿その他の対象建築物等に用いられた特定建設資材に付着したものの有無の調査、その他対象建築物等に関する調査を行うことが規定されている。工事着手の7日前までに都道府県または政令都市に届出が必要となるが、届出に際しては、事前調査の結果を記載することも求められている。
P49
建築物の通常の利用時の調査の内容や流れについては、国土交通省から地方公共団体の石綿(アスベスト)担当者向けに
「建築物石綿含有建材調査マニュアル」(2014(平成26)年11月)が示されている。
P51 1.4
建築物石綿含有建材調査とは
P42‐1 大気汚染防止法
建築物石綿含有建材調査には、①前述した解体・改修工事等における、石綿則等に基づく事前調査、②建築基準法に定める石綿含有吹付け材や同法に規定がない石綿含有建材を使用している建物等を維持管理するための調査、③将来建築物の解体等が行われることを想定した資産除去債務を見積もるための調査、があるが調査の基本は同じである。
P42‐12 大気汚染防止法
2010(平成22)年4月からは、国内の企業会計に資産除去債務の考え方が導入され、有価証券の発行者は、原則として、建築物に石綿含有建材が存在するか否かについて調査した上で資産除去債務を合理的に見積もり、資産除去債務を負債として計上、これに対応する除去費用を有形固定資産に計上する会計処理を行うこととされた。
P51 1.4.1建築物石綿含冇建材調査の概要
① 建築物の所有者や建物管理を所有者から受託している業者などから竣工年、改修履歴などの情報を入手する。
② 設計図や竣工図などの図書類の調査(以下「書面調査」)を実施し、現地調査時の確認ポイントなどを洗い出す作業を実施する。
P53 1.4.1建築物石綿含有建材調査の概要
図面上では石綿含有建材が使われているように記載がある場合であっても、実際には使用した材料が同等品扱いで他の建材に変更され、石綿含有建材を使用せずに施工されていたり、改修などの際にすでに撤去済みであったりすることもある。
P53 建築物石綿含有建材調査の概要
③ これらの書面調査の結果などを踏まえて建築物を調査する。
④ 実際の建物調査から分析による判断が必要な箇所を抽出した上で、的確に使用されている材料を代表する分析試料を採取する。
P53 建築物石綿含有建材調査の概要
⑤ 分析機関に依頼して分析を行う
⑥ 最後に、書面調査、現地調査、分析結果などを合わせて、建物調査報告書を作成する
建築物石綿含有建材調査の概要
P53 1.4.2 建築物石綿含有建材調査にあたっての留意事項
18 調査にあたってはできる限り石綿を吸入しないように、防じんマスクの着用、帯電防止の作業衣の着用を行う。
21 必ず該当部位の湿潤化を行う
22 調査する際は飛散に留意する。
P53 1.4.2 建築物石綿含有建材調査にあたっての留意事項
23 S造(鉄骨造)の建築物を調査する場合、特に鉄骨に耐火被覆が施されているときは、吹付け材が劣化等により天井裏に堆積しているおそれがあるため、点検口からの調査の際、点検口からの粉じんの飛散に留意する。また、天井板に石綿含有建材が使用されている場合があることに留意する。
P53 1.4.2 建築物石綿含有建材調査にあたっての留意事項
32 特に板状のものは、図面上無含有建材との記載があったとしても、石綿含有の場合もあり、逆に図面上石綿含有建材であっても、無含有の場合があるので留意する。
P54 1.4.3 石綿含有建材調査者とは
(1) 石綿含有建材調査者の役割
調査者は、解体・改修工事時や通常の建築物利用時において石綿が健康障害を引き起こすリスクを回避するため、世の中にある1棟ごとにすべて異なる一つひとつの建築物に使用されている建材に対して調査し、その建築物における石綿の使用の有無を判定することを担うことになる。
1.4.3 石綿含有建材調査者とは
調査漏れのない石綿含有建材の有無の判定が調査者には求められている。
結果的にあいまいな内容をあたかも確証ある結果として記載した現地調査報告書を提出するなど、誤った判断をすることのないように留意すべきである。
1.4.3 石綿含有建材調査者とは
調査者の実施した調査結果に基づいて、工事の施工方法を決定したり、存在する石綿含有建材に対する対策を講じることになる。
石綿に関する知識だけでなく、建築物への対策工法にも精通した調査者が社会から求められている。
1.4.3 石綿含有建材調査者とは
意図的に事実に反する調査を行ったり、調査結果の報告を絶対に行ってはならない。
一人の調査者による調査結果の捏造行為が、調査者全体の社会的な信用を、ひいてはこの調査者の制度設計への信頼を失墜させてしまう。
1.4.3 石綿含有建材調査者とは
調査活動を通じて得た情報の機密保持が強く求められる。いかなる場合においても、こうした情報の漏えいは許されない。
P55 1.4.3 石綿含有建材調査者とは
(2) 石綿含有建材調査者に求められるもの
① 建築物解体等における石綿規制についての知識を有する。
② 建築物などの設計図書や施工図などを解析し、必要な情報を抽出できる。
③ 建築物などの意匠・構造・設備にわたる基礎知識を有する。
④ 建築物などに使用されている建材(石綿含有も含む)に関する知識を有する。
⑤ 建築物などの施工手順や方法に関する基礎知識を有する。
⑥ 建築物などに使用されている建材の採取方法などに関する知識を有する。
⑦ 石綿分析技術に関する基礎知識を有する。
⑧ 石綿分析結果の解析力を有する。
⑨ 中立性を保ち正確な報告を実施する力を有する。